「寒い!!」
 突然、隣でルナマリアが叫んだ。
「・・・・・・だいじょ、ぶ?」
「あんまり」
 心配そうに見上げたステラにルナマリアは身を震わせながら、顔を横に振った。
「てか、ステラ。寒くないわけ?」
 こちらを見下ろしながら、ルナマリアは毛皮のコートの上から両腕をしきりに摩っている。
「うん。寒く、ない」
「普段から青っちろい顔してるものねー。貴方見てると余計に寒くなるわ」
 よくわからない論理でステラは寒さに強いことで納得されたのだが、当の本人は訳もわからず首を傾げた。
 ステラとルナマリアは二人で粉雪の降りしきる中、アークエンジェルへと向かっていた。ざくざくと白銀の絨毯に足跡を残しながら歩き出して、もう一時間は
経とうとしている。
 昨夜、突然かかってきたルナマリアからの電話でこうしてルナマリアと待ち合わせをして出かけることになったのだが、ステラとしてはいまいちアークエンジェル
に何をしに行くのか分かっていなかった。
 とりあえず、待ち合わせた場所に行きこうして目的地へ向かっているわけである。
「・・・・・・この雪じゃあ、そりゃあレールも止まるわよね。にしたって、歩きって・・・・・・あーあ、寒い」
「ルナ、はい」
 ステラは自分のつけていた手袋を取って、ルナマリアに差し出した。ミトンの形の赤い毛糸の手袋は、ぼんぼりが二つついた可愛らしいものだった。
「なにしてんの、つけてなさい」
「だって。ルナ、ないから。さむい」
「あたし?あたしは昨日ネイルしてもらっちゃって・・・・・・メイリンのせいだから、いいの。ステラがつけといて」
「でも」
 一生懸命に顔を横に振って、ステラはルナマリアの手を取った。たどたどしい手つきでルナマリアの両手に付けると、にっこり笑って見上げた。
「これ、シンくれた。とってもあったかい。ね」
「シンがぞっこんなの、凄くよくわかるわ!たまんない」
「ぅあ」
 言ってルナマリアはぎゅっとステラを小さな頭ごと抱きしめた。腕の中でステラの小さな呻きが聞こえたが無視して温かい小柄な体を満喫する。
「何を戯れてるんだ。後ろから見たら小熊が二匹って感じだな」
「え、ああ、アスハ代表!」
「いいよ、カガリで」
 ルナマリアの胸に顔が埋まっていてステラには何も見えなかったが、聞こえてるのはカガリの声だ。懸命にもがいてステラは漸くひょっこり顔を出した。
 見やると緑のコートに身を包んだカガリと目が合う。
「カガリ」
「やあ。ステラ、今日も可愛いな」
 カガリは言ってステラの髪をくしゃっとかき混ぜた。いつもそうされるのでステラは笑顔でじっとその手に任せる。
「カガリさんもですね」
「?」
「姫過保護派」
 ルナマリアは自分と同じく、愛おしそうにステラを見つめるカガリに苦笑した。
「カガリ、さむくない?だいじょぶ?」
 困った顔を見合わせている二人にステラは、見上げて聞いた。止みそうもなく粉雪は次々と舞い、立ち話していると頭の上にやんわり積もっていた。
「ははは、何かのお菓子みたいだぞ。ステラ」
「粉砂糖にみえる、みえる」
 寒くないか気遣ったのに、何故か二人に笑われてしまい理由もわからずステラは頬を膨らませた。
 二人だって、頭に雪あるのに。
「あ。おこった」
「怒るのね、ステラも」
 面白がるようにこちらをみて言うと、また合わせる様に二人で笑い出す始末である。
「はやく、いこっ」
 ステラは自分よりもずっとすらりと綺麗な二人の背中を押し、前進することにする。
 寒くはなかったが、いつまでもここで笑われる方がなんだか耐えられなかった。尊敬し、憧れる女性二人なのだ。悔しい。
「ちょっと、ステラ。ほんとに怒ってんの?」
「おこっない」
「怒ってるじゃない」
「おこっなーい」
 ルナマリアは背を押されながら、声を上げて笑う。豪快に響くその笑い声にステラはますます面白くない。
 隣にいるカガリは本気で腹を立てているというのに、ステラの頬不服に膨らんだをつついてくる。やきもきする気持ちをステラは大きな瞳に込めて、二人を睨んだ。
「ごめんって、怒らないで」
「すなまかった。な?」
「・・・・・・ふたり、まだわらってる」
 ステラにはわかった。内心、怒った自分をまだ二人が笑っていることが。
 可愛くて仕方ないからルナマリアとカガリにとって微笑ましいのだが、ステラにしたら面白くないのである。もう一度、抗議しようとしたその時、ステラのポケッ
から小さく音が鳴り出した。
「電話か?」
「う」
 ポケットからはおっとりとしたラクスの声がする。
『お電話ですわ、ステラ。お電話。ね、ステラ』
「なに、その着信音・・・・・・」
 携帯を取り出すステラを見つめてルナマリアは半ば呆れ気味に呟く。
「ラクス、入れてくれた。アスラン、ぜんぶそうゆうふうにしてくれたよ」
 決してシンの声では何も入っていないだろう、アスランがプレゼントした携帯はステラの耳元で勝ち誇ったように存在していた。
「はい」
『あ、ステラ。もう着いた?アークエンジェル』
「シン」
 嬉しくて呼んだステラの息は真っ白になって消える。雪をも溶かす、そんな雰囲気に側で聞いている二人は顔を見合わせて、微笑んだ。
「まだ。いま、ルナとカガリ、いっしょ」
『そか。二人が一緒なら安心だな。寒いから、早く行くんだよ』
「うん!シンくれたコート、あったかいよ。ありがとう」
 はらはら舞う雪を見ながら、ステラは温かい大好きな声に頷く。どうしてこんなにもシンの声は自分を呼ぶ気がするのだろう。
  今すぐ帰りたい。そんな気持ちがして、ステラは、目を伏せた。
『恥ずかしかったけど、選んでよかったな。うん。はは』
 電話の向こうで少し照れた声がする。シンがきっと頭を掻いて苦笑している。目に浮かんで、ステラはますます胸が締めつけられた。
「シン。もう、きるね」
『え、ああ。うん。ごめん、明日迎えにいくから。今夜は皆と楽しんでな』
「ん。ありがとう」
 プツっと切れて聞こえなくなる向こう側にステラはやっぱり自分から切り上げたのに寂しくなった。遠くに消えてしまったかのような喪
失感につい、いつまでも携帯に耳をつけたままにしていた。
「ステラ、いこう」
 俯きかけたステラの手をルナマリアとカガリが両側で繋いでくれる。
 間に挟まれて歩くのは、とても温かかった。守られているようで、とても愛されている気がした。心に棲みかけていた暗闇が去るのを感
じ、安堵にステラは肩の力を抜いた。
「・・・・・・ふ」
 嬉しくて笑ったステラに二人は満足そうに微笑んで、顔を見合わせた。

 

 

 

 


女の子祭りです。

続いちゃいます。息抜きに・・・。

いやあ、本編沿いの書いてると、こういう設定てほんと奇蹟というか。そこにたどり着けるならなんて素敵だろう。

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