「相談する相手を、考えろ」
 レイは迷惑極まりないという思いを隠しもせず、面に出して言った。
「そう言うなよー・・・・・・親友だろ?」
「なった覚えがない」
 瞬きもせずにレイは冷ややかに言い切る。
 両手をお願いモードでくっつけていたシンは、そんな取り付く島もないレイの態度に業を煮やして立ち上がった。
「お前、冷たいぞ!」
「どう取ってくれても構わない。お前のことだ、自分で考えろ」
「それが出来ないから、相談してるんだろ。俺ってば、実はしたことないんだよ、だからさあ」
「俺こそ、したことなんてない」
「お前、モテるくせに!」
「そんな覚えもないな」
 会話が進むにつれ、レイは頭痛でも催したように額に手を当てた。シンは一向に引く気配なく、言い募る。これでは終わりがない。
 レイはひとつ、嘆息してことの始まりを思い出した。


 
 目の前に一冊の本。
 そこには「丸秘!デート必勝法」の文字。

 シンはこれをステラハウスで見つけ、愕然としたという。
 しかも本は引き出しの奥底に隠すようにしまってあったらしく、偶然書類の行方を探していたシンは見つけたことも奇跡的な程だとしょげていた。
 恐る恐る開いた本の中には、所謂、ドックイヤーの嵐。
 そう、蛍光ペンまで引いてあり、明かに「デート」の為の下調べ痕跡である。
「・・・・・・え、いや、え?誰と・・・・・・ステラちゃん」
 驚愕から立ち直れないシンは、震える声でそう言ったそうだ。
 シンにしては冷静だったのは、その震える手で本の創刊日を確かめたこと。

 明かに結構前の日付なことに、シン・アスカ、悶絶。

 

 そこまで思い出して、レイは憐れみも含んだ視線でまだうだうだ言っている親友を見つめた。
「かわいそうに」
「かわいそう、言うな!」
 涙目で言い返すシンに益々いたたまれず、レイは顔を横に振った。しかし、である。
 そんな必死にお願いされても、先程も言ったとおり、したことがないのである。アドバイスも相談も乗りようがない。勤務中にも関わらずブリッジに駆け込んで
きて、レイをグリーティングルームまで連れてきたシンの必死さは理解できたが、どうしてやることもできない。
 大体、一緒に暮らしているのにデートって。
「・・・・・・いや、まあ、俺だってそう思うさ。一緒にでかけたり、してるし。それをデートって言うんじゃないの?って思うけどさぁ」
「違うと思うなー」
 脱力気味にソファに身を預けたシンの背後から、女の子らしい丸い可愛らしい声がする。
「メイリン!」
 シンは救世主を見つけたような瞳で背後を振り返った。
「シンもレイも揃って何してるのかと思えば、恋バナ?」
「・・・・・・こいばな・・・・・・?」
 レイは自分の頬が引きつるのを感じる。多分、彼女は何かの略を言ったのだろう。レイには全く結びつかない。
「タリアさんに告げ口しちゃうぞー」
「メイリン、頼む!大事な話なんだよ、サボってるんじゃないんだっ」
「あら。シンったら、必死ね」
 ぱちぱちと大きな瞳を瞬かせてメイリンは口唇に指を当てる。
「どうしてここにいるんだ?アークエンジェルも来ているのか」
「うん。オーブに停泊中。ほら、海洋博物館の式典があるから」
「ああ・・・・・・」
 朝会でタリアが言っていたことを思い出す。レイは頷きながら、仕事に戻るのを諦めてシンの向かいに座った。
「そっちも参加でしょ?レイは艦旗持つって聞いたよ」
 メイリンは子猫のような仕草でソファに駆け寄ると、楽しそうにレイの隣に腰掛ける。シンは頭を抱えているというのに、気にした風もなく彼女は楽しそうに笑った。
「機嫌がいいな。何かあったか?」
「いやあ、なんだか嬉しくて。またこんなふうにミネルバで一緒にお喋りできる日が来るなんて」
「・・・・・・そうだな。あの時はミネルバの男どもは泣いてたぞ。アイドルがいなくなったって」
 レイはメイリン・フォークがアスランと消えたあの日を思い返しながら、そっと返した。敢えて変わらない態度で話すメイリンに、レイは目を細めて見返した。時
は経つ。良くも悪くも、時間が解決することの方が多いのだ。
 戦争が終わっても、メイリンはアークエンジェルの乗組員である。その意味が表すところをレイは何度か考えたことがある。
 レイは握っていた。
 あの時、討つ為の刃を。裏切りだと言い切り、シンを甘いと罵った。
 目の前で微笑み、嬉しそうに見返す彼女ごと切り捨てろと友に叫んだ。混沌とした闇が心を巣くって、未だにあの頃の自分を思うと押し潰されそうな感覚に陥る。何
もかもデュランダル議長が正しいと信じ、またそれを証明することこそ正義だと思っていた。
 その想いを盾に逃げていたのだ。自分のしていることから。罪悪感や劣等感から。
「レイ」
 ふと見つめた一点を睨むようにして動かないレイにメイリンは心配そうに覗き込んだ。
「シンは何悩んでるわけ?」
 向かいに座って、未だ頭を抱えたままのシンである。メイリンは心底、わくわくした表情でレイに呟く。
「聞かせてよ。その、恋バナ」
「こいばなってなんだ」
「恋の話のことに決まってるじゃん」
「・・・・・・なるほど」
 多少呆れながらもレイは頷いた。続きを待っているような雰囲気のメイリンに内心参りながらも、仕方なく続けた。
「デートを内密に計画して、驚かせたいのだそうだ。で、シンがデートなどしたことないって俺に・・・・・・」
「へえ、ステラちゃん絡みかあ。シンって、そうなんだ」
「そうとか意味深に言うなー。ずっと戦っていたんだ、青春時代はー」
 漸く顔を上げたシンは恨めしそうにレイとメイリンを見ると、相手まで気の滅入るような溜息をついてソファに沈み込んだ。
「確かに、そうよね。皆戦争でそれどころじゃなかったもんね。で、デートがしたいと」
 納得した様子のメイリンの言葉にレイは苦笑する。
 デートがしたいのではない。したいのかもしれない、のだ。
「しかも内緒で計画だなんて!ちょっと、シン見直しちゃった」
 目を輝かせたメイリンはシンの肩をびしびし叩いて喜ぶ。引きつった笑いのまま、シンは言葉にならない言葉を喋っていた。
 半ば、嫌な展開を予感しながら、レイは余計なことを言わないよう黙ることにする。
「いいなあ、ステラちゃん。こんなんでも、彼氏だもんね。彼氏がいるってことが素敵だよね。いいないいな、指輪も貰ったみたいだし」
「・・・・・・こんなんって」
 テンションのどんどん上がるメイリンにシンは半眼になりつつ、隣のレイを見やったが視線を逸らすレイに拳を握った。あまり出歩くことのないステラなのに、指輪
のことまで目ざとく見ている女性陣にシンは辟易した。
「よぉし!!このメイリン様が恋のキューピットになってあっげるー!」
 勢い良くソファの上に立ち上がったメイリンは天に拳を突き上げて、宣言する。次いで、上機嫌の彼女は隣のレイの腕をも取って、同じように腕を上げさせた。
「・・・・・・メイリン?」
「レイキューピットもだー!」
 すっかり似合うようになってしまったアークエンジェルの制服に身を包んだメイリンは、元気溌剌に続いて宣言する。突然の出来事にレイは成すがままである。
「レイキューピットって・・・・・・」
 反応できないままシンがそれだけをやっと呟くとメイリンは腕を組んで唸った。
「確かに可愛くないね、なんか。うーん」
 うーん、じゃなくて。
 レイは我に返って、顔を振った。この場にいてはいけない、そう思って腕を放して貰えた隙に逃げ出すことにする。
「レイキューって、ど?」
 ど?って言われても。
 シンが捕まっているうちに、レイはそろりそろりとグリーティングルームを去るために入り口に向かう。
 これに捕まったら、絶対ややこしい。というか、絶対えらいことになる。
「じゃ、張り切っていこー!レイキュー!私のことは、メイキューと呼んでね!」
 言い切って、メイリンはソファから身軽に降りると去りかけていたレイの肩を掴みとめて、にっこり微笑む。
 レイ、シン、同時に思うのであった。

 メイリンって、こんなに動けたっけか・・・・・・?
 

 

 

まさかのNEXT→


 

すいません。リイコ様、まだ未完でまだまだですがとりあえずUPです。

楽しいです、こういうのって。素敵テイストになるよう頑張ります♪

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